前世が猫の公爵は令嬢に撫でられたい
ある日、グレースは珍しく夫の私室に呼ばれていた。
寝室は共同なので、夫の私室に入ることはめったにない。

どんな用件なのかは、さっぱりわからなかったが、とにかく夫に呼ばれたということで、少し浮足立って、夫の私室へと向かった。

ノックをすると、中から返事が聞こえたので、入室する。

すると、夫がソファーに座っていた。テーブルには酒が置かれている。

「あぁ。ここに座ってくれ。」

「はい。」


夫の横に座るように促されて、素直に従った。


「まぁ、酒でも飲まないか?」

「え?私もですか?」


確かに、グラスは2つ用意されている。

「では、少しだけ。」


グレースがそういうと、夫はグラスにグレースの分もついでくれた。そして、自分の分を一気に飲み干した。

「そんな飲み方、身体によくありませんわ。」

「これくらい平気だ。」


仕方のない人だ。と思いながら、グレースは酒を少しだけ飲んだ。
夫の好む酒は、グレースには強すぎる。一口飲んだだけで、身体が熱くなるのがわかった。

夫は、もう一度自分のグラスに酒を注いで、それを飲み干す。
自分が注いだほうが良いのではないかと思ったが、夫は何やら真剣な顔をしているので、提案しずらい。

何故ここに呼ばれたか見当がついていないグレースなので、夫が話し始めるまで待つことにした。こういうときは黙って待つのが、淑女の嗜みというやつだろう。

「・・・・・」
「・・・・・」


が、いくら待てど、夫が話し始める気はない。酒は2杯しか飲んでいないので、その程度で夫が酔うわけもない。


いっそ自分から聞いてしまおうか。そんなことを考えていたグレースの耳に届いたのは、信じられない言葉だった。


「君も王都で暮らしてはどうだろう?」
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