前世が猫の公爵は令嬢に撫でられたい
「は?」

予想だにしなかった言葉に、ついつい低めの声が漏れた。
グレース自身、久しぶりに聞いた、イラついた時の己の声である。

夫も驚いた顔で、グレースを見ている。でもグレースにはそんなことどうでも良かった。


「それはどういう意味ですか?」

「いや、子供達が全員王都にいるだろ?だから君も王都にいたいのではないかと・・・」

「それは、あなた様もご一緒にということですよね?」

「え?いや、私は領地を離れられない。しかし、君は王都のほうがいいだろ?」

「何故そう思われるのです?」

「君は王都の生まれだし、友人も王都に多くいるだろ?
 ここはド田舎だし、子供達にも気軽に会える王都のほうがいいのではないかと・・・」


夫の言葉が尻すぼみなのは、グレースからでる怒りを感じ取っているからだろう。
いつも堂々としている夫の目が泳いでいる。

「君は子供たちを愛しているだろ?だから、君のためを思ってだな・・・」

その言葉を聞いた時、グレースの中で何かが切れた。


「ふざけないでください!!」


グレースは立ち上がり、ソファーにあったクッションをつかんで、それを夫にむかって振り下ろした。


「私のため?違うでしょ?
 そんなに子供がいない私との生活が息苦しいのなら、はっきりとそう言ってくださればいいのです!!

 王都の生まれだから何だと言うのですか?!私をいくつだと思っているのです?!

 王都よりもこちらで暮らしたほうが長いのですよ?!

 友人だって、こちらにも沢山おります!!」


「え?!ちょっと落ち着いて!!」


グレースは夫に馬乗りになり、何度もクッションで夫を叩いた。
辺境伯は軍隊を持つことを許されており、そこのトップでもある夫には、大したダメージは与えられない。それでもグレースは手を止めなかった。

「だいたい、あなたは私のことをいつまで王都の人間だと思っているのですか!!
 私は、とっくにこの地に骨を埋めるつもりでいるのに!!」


それはグレースがずっと夫に言いたかったことだった。
それを聞いた夫は動揺した。明らかに図星を突かれた反応を見て、グレースはますますいら立ちを覚えた。
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