前世が猫の公爵は令嬢に撫でられたい
2階の高さのバルコニーから飛び降りて、ほぼ音もなく華麗に着地する。猫の鳴き声がする方へと近づいていくと、誰かの話し声が聞こえてきた。


「ほら、大丈夫よ。おいで。」

人がいるなら引き返そうという考えが頭をよぎったが、なぜか引き寄せられるように声のほうに足が動く。

若い女性が木から子猫を降ろそうとしていた。子猫は素直に捕獲される。


「降りられないなら、どうして登ったりしたの?」

クスクスと笑いながら、子猫を撫でている。子猫は心地良いのかゴロゴロとのどを鳴らしながら大人しく撫でられていた。


その姿を見た瞬間、ルーカスの体に電撃が走った。


撫でられたい。


それは、あり得ないほど強い欲望だった。

思わず、『私のことも撫でて欲しい』と口に出しそうになった。だが、ありったけの理性を振り絞りそれを止めた。

だって、夜の庭園でいきなり知らない男が『撫でてくれ』と言ったら、それはもう不審者で変態だ。一発で警備に突き出されるレベルである。


どう声をかけるべきか迷う。言葉選びを間違えば第一印象は最悪である。


ルーカスは優秀な頭をフル回転させる。もっとも自然な流れで彼女に頭を撫でてもらうにはどうすればいいか。

『可愛い猫ですね。私も撫でてもらってもいいですか?』一見まともに見えて、アウトである。

『猫を撫でるのがお上手ですね。ぜひ私もやり方が知りたい。試しに私を撫でてもらっても?』さっきよりアウトある。

『その猫はとても気持ち良さそうだ。ぜひ私もあなたの手で・・・。』自重


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