前世が猫の公爵は令嬢に撫でられたい
「頭を撫でてもらえないだろうか。」

それはギリギリ聞き取れるくらいの声だったが、しっかりのオリビアの耳に届いた。が、一瞬意味が分からなかった。

「すまない。忘れてくれ。」

オリビアの反応を拒否と受け取ったのだろう。ルーカスは慌てて言った。

「頭を撫でればよろしいのですか？」

「いいのか？」

「もちろんです。」

さんざん恥ずかしいことを人にしておいて、頭を撫でるくらいで何をそんなに躊躇しているのかわからないが、夫が望むならその通りにしてあげようと思う。

そっとルーカスの頭を撫でる。柔らかな金髪の髪は、小麦色のオリビアの髪より柔らかくて、何だか笑ってしまった。

ルーカスは、笑うオリビアをじっと見ていたが、モゾモゾと動いて、オリビアの胸に顔を埋めた。驚いたが、オリビアは夫の頭を撫で続けた。

なぜ、頭を撫でて欲しいのかわからないが、若くして公爵家の当主となった夫にはオリビアが想像もつかないような重圧があるのかも知れない。いずれわかる時が来るかもしれないが、今はわからないのでオリビアは、ただひたすら夫の頭を撫で続けた。

どれくら撫でていたかわからないが、夫がモゾモゾと動いたので手を止めると、夫が顔を上げる。そしてじっとオリビアを見つめながら言った。

「オリビア、愛している。必ず私が幸せにする。」

「では、ルーカス様のことは私が幸せにします。」

オリビアの返事に、ルーカスはなぜか泣きそうな顔になった。そしてオリビアの腕から抜け出した夫は、今度はその胸にオリビアを閉じ込めた。

オリビアの耳に普通では考えられないくらい速い心臓の音が聞こえる。その音を聞いた時、オリビアと同じくらいルーカスも緊張しているのだと知った。そして、この人もただの人なのだと思ったとき、愛おしさがこみ上げてきた。


「愛しています。」

オリビアがそう告げると、抱きしめる腕に力が入った。

「私もだ。」


ルーカス想いとオリビアの想いが同じかはわからない。しかし、この人となら幸せになれると確信したオリビアだった。




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