前世が猫の公爵は令嬢に撫でられたい

僕は“エル”と呼ばれるようになった。この家にはたくさん人間がいる。僕を拾った人間はみんなに“お嬢様”って呼ばれてるけど、本当の名前はエレーヌらしい。

エレーヌといるのは、心地良い。僕の昼寝を邪魔したりしなし、遊ぶのだって上手だ。ご飯も美味しい。

そんな僕の日常が変わったのは、ある人間に会ってからだ。

その日、僕はエレーヌに抱っこされて、今まで入ったことのない部屋にいた。そこには初めて会う人間がいた。

「エレーヌ、それがあなたが言った猫？」

「えぇ。そうよ。お姉様。」


その人間が僕をじっと見つめる。嫌な感じがする。この人間は優しい人間じゃない。


「ねぇ。エレーヌ、私にその猫を下さらない？」

「え？」

「だって、エレーヌは私と違って、健康で楽しいことだって沢山あるでしょう？私はこのベットから起き上がれない。
それなら、私が可哀想だとは思わないの？」


エレーヌは何も言わなかった。でも、とても泣きそうな顔で“おねえさま”を見ていた。


「猫ちゃん、おいで」


“おねえさま”が僕を呼ぶ。俺はエルだよ。猫じゃない。

本当は、“おねえさま”のところになんて行きたくなかったけど、行かないとまずい雰囲気が漂っていた。

僕はエレーヌの腕の中から飛び出て“おねえさま”のところへと向かった。“おねえさま”のベットの上に上ると、一瞬、“おねえさま”の方から嫌な視線を感じた。

ベットに登れたくないなら呼ぶなよ。と思いつつ、止められないから“おねえさま”に近づいていくと、いきなり“おねえさま”に前足をつかまれて引っ張られた。

エレーヌとは違う触り方。やっぱりこいつは優しい人間なんかじゃない。


“おねえさま”は、僕が逃げ出さないように押さえつける。


「この子も私のほうが良いんですって。この子はもう私のものよ。」

勝ち誇ったように笑う“おねえさま”は勘違いしている。


何もわかってないな。猫は飼い主を自分で選べるんだぞ。俺の飼い主はエレーヌだけだよ。