オオカミ社長と蜜夜同居~獣な彼の激しい愛には逆らえない~
いつも一慶や晴臣の後を必死に追いかけていた幼い美紅が、急に大人びて見えたのは彼女が大学へ入学した頃だったか。
半年ぶりくらいに偶然街で見かけた美紅に、しばらく見惚れたくらいだ。柄にもなく胸が高鳴り、かける声はかすれた。
『少し太ったか?』と冗談めかした言葉で自分の動揺を隠すとは、情けないにもほどがある。いつもの余裕も自信も、そのときばかりはどこかへ吹き飛んだ。
当然ながら『いっくんの意地悪』と美紅を怒らせる羽目に。晴臣なら〝綺麗になったな〟とストレートに褒めただろう。
それからというもの一慶の中で美紅が気になる存在に変わったが、彼女の想い人は子どもの頃からずっと変わらずに晴臣。自分の気持ちはごまかす以外になかった。
美紅の両親からの信頼が厚いのをいいことに半ば強引に同居に持ち込んだものの、彼女の気持ちを無視して、自分の想いをぶつけることにためらいを感じている。
そのくせ抑えきれずにキスをしてしまう節操のなさ。アンバランスな心に完全に翻弄され通しだ。
これまでの恋愛経験はまったく役立たず。大事にしたいと思うほど、美紅をどうしたらいいのかわからなくなるときている。
誰にも渡したくないのに、美紅の晴臣を想う気持ちは第一に考えたい。一慶は激しい葛藤の中にいた。
「あんまり無理はしないでくださいよ」
「わかってる。心配かけて悪いな。サンキュ」
滝沢の肩をトンと叩き、一慶は足を速めて社長室へ戻った。