オオカミ社長と蜜夜同居~獣な彼の激しい愛には逆らえない~
「やだ、どうしよう……。こんなところで動けなくなるなんて」
美紅の頭の中に〝遭難〟の二文字が浮かぶ。迷子どころの話ではない。
心細さに輪をかけて、闇が美紅に迫ってくる。一段と暗くなった辺りは、確実に夜に向かっていた。
「いっくん……」
名前を呟いたら余計に寂しくなった。
子どもの頃、迷子になったときのことを思い出す。あのとき見つけてくれたのは晴臣だった。
泣きじゃくる美紅を背負い、別荘まで歌って慰めてくれた。
でも今、美紅が一番に顔を見たいのはどうしたって一慶だった。
このままもう二度と会えなくなったらどうしよう。気持ちも伝えないまま会えなくなったら……。
一慶が佐和子に想いを残していたとしても、素直に好きだと伝えておけばよかったと後悔に襲われる。
「いっくん、会いたいよ……」
斜面に膝を抱え、美紅はポツリと呟いた。