オオカミ社長と蜜夜同居~獣な彼の激しい愛には逆らえない~
佐和子はパーカーのポケットからスマートフォンを取り出し、早速電話を掛けはじめた。が、直後に近くから着信音が鳴り響く。
音源を辿ってみると、それは美紅が座っていた椅子の上だった。置き去りになっている。
「美紅を見かけなかったか?」
同僚たちに聞くが、みな一様に「さっきまでそこにいたけど」と首を傾げる。
「ちょっとその辺を見てくるよ」
一慶は鉄板と肉を晴臣に託し、そこを離れた。
上着を羽織り、別荘近辺を小走りに巡回する。日が落ちて薄暗くなった山は、気温がぐっと下がってきた。
昔から美紅は目を離すとひとりでふらっとどこかへ行く癖があり、この別荘へ来ると、よく裏の小道にある花を摘んでいたものだ。久しぶりにここへ来て、懐かしさでそこへ行っているのだろう。
そう高をくくっていた一慶は、予想した場所に美紅の姿がないと知り立ちすくむ。体の芯がひやりと冷える気がした。
いつだったか、美紅がこの山で迷子になったときのことを思い出したのだ。あのとき晴臣や佐和子と方々を探し回りながら、泣いている美紅を最初に見つけたのは一慶だった。