オオカミ社長と蜜夜同居~獣な彼の激しい愛には逆らえない~
声を掛けてきた晴臣にそう言い残し、一慶は別荘の前の道を下りはじめた。
「美紅ー!」
名前を呼びながら走る。夜が迫った山は木々の葉がこすれ合う音が奇怪に聞こえ、一慶の心をざわつかせる。
ふらっと散歩したつもりでどこかで迷っているのだとしたら、美紅も相当怖い思いをしているだろう。
美紅になにかあったらと考えると焦りは増すいっぽうだった。
ここ数日、ほとんど口をきいていない美紅とはすれ違いの生活を送ってきた。もともと出勤時間の遅い一慶は帰りも遅いため、帰宅すると美紅は自室にいることが多い。
あのキスの一件以降、どう接したらいいのかわからなくなる情けない状況に陥りながら、晴臣が美紅たちの親睦会に同行すると聞き、黙ってはいられなかった。
美紅が想いを寄せる晴臣とうまくいくのなら、それが一番。そのくせそれを許せない幼い自分もいて、その狭間でいったりきたりを繰り返しているのだ。
三十二歳にもなって、つくづく幼稚だと一慶自身も思う。小学生レベルの恋愛スキルに笑うしかなかった。