戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜


「え…?」


いつもと違う口調であることにも気づかずに、珍しく彼に話しかけられたことに驚いて、思わず私は足を止めた。

振り返ると、そこには分厚いメガネを外している村雨くんがいる。


「はぁー…地味で無口で仏頂面の俺のことなんて、適当に扱っておけば良いものを」

「む、村雨くん…?」


何か、村雨くんの様子がいつもと違う?

そのことに何となく気づき始めた時だった。


「アンタもこっち側の人間だろ」


メガネを外した彼が重たい前髪を掻き上げて、私と目を合わせた瞬間、心臓が止まるかと思った。

誰…このイケメン


「こっち、側…?」

「飲み会なんてガヤガヤした場所が嫌いな人間。アンタもそうだ」


嘘でしょ…目の前にいる彼は、本当にあの村雨くんなの?

驚き固まる中で、すぐに思った。

今の彼を連れて歓迎会に戻れば、すぐに村雨くんは社内で時の人となるだろう。

普段の彼は図体がデカくて邪魔だと揶揄されることも少なくないが、この素顔でこの長身では、モデル体型だわ、ともてはやされるに違いない。

それほど、世のイケメン俳優と並んでも不思議じゃないほど容姿端麗だったのだ、素顔を晒した村雨くんは。

私だって、アラサー女なのに恥ずかしいが、彼の素顔に一瞬見惚れてしまった。

でも、すぐに思い直す。

どうして、彼は素顔を隠して仕事しているの?

きっと、事情があるに違いない。繊細であるはずのその事情を、私が安易に聞いていいもの?


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