戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
ずばり核心を突く言葉を投げかけられて、息が詰まった。
何も言い返せないということは、肯定と言っているに等しいものとも気づかずに。
「い、良いかげん離してよ…」
「まぁ、今日はこれくらいにしてやるか」
これ以上は我慢きかなくなりそうだしな
そんな不吉な、想像するのも恐ろしい一言を添えて、村雨くんは意外にもあっさりと私を解放してくれた。
っていうか…今日はって、なに。
「っつーか、これから二次会行かなくて良いのかよ」
あ、そうだった。
村雨くんを追いかけて咄嗟に出てきたんだった。
もう幾分時間もすぎたし、すでにお開きになって、家に帰る人や二次会に行く人が外に出てきている頃だろう。
歩くスピードが早すぎる村雨くんのおかげで、会場から少し離れた人通りの少ない道路にいるから、この状況をうっかり目撃されることもないことが、唯一の救いだ。
「二次会は元々、不参加にしてあるから」
「なんだ、それならもう気を張らずに済むな」
…どうして。
なんで私の思っていることがわかるの。
まるで私の本心を知っているかのような口ぶりの村雨くんに、戸惑いを感じずにはいられない。
「何、を…」
「無理して飲み会に行ってんの、分かってるから」
不適な笑みを浮かべた村雨くんの瞳に、いかにも不安そうな表情をした私が映っている。
”皆の北川さん”という仮面を一瞬で剥がされ、光のもとに地味子という私が晒された気分だった。
「不安で仕方がないって顔してるな」
「え…」
「安心しろ。他言はしない。アンタも口が固いことは知ってる」
まさか、私が村雨くんの素顔を知っても、社内にも誰にも言わないことを折り込み済みで、私の前で素顔を見せたの?
彼の頭の回転の速さには、業務中でも何度か驚かされたけど、ここまでとは知らなかった。
「今日まで5年かかって、ようやく”皆の北川さん”じゃないアンタを俺の前に引き摺り出せたんだ。そう簡単には逃しはしない。覚悟しておけ」
不適に微笑む村雨くんを目の前に、心がザワザワと大きく音を立てるのを感じていた。
まさか、こんな肉食獣に気に入られるなんて…
しかもそれは、”皆の北川さん”という完璧女子ではなく、地味子の私だなんて…。