戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
冴えない彼の素顔
「おはようございまーす…」
ハプニングだらけの歓迎会から、翌週。
月曜の朝、ソワソワした気持ちを抱きながら出勤した。
「おはようございます、北川さん!」
「おはよう、宮田さん」
自分のデスクに向かう途中で、同僚たちと挨拶を交わしながら思う。
みんなの反応は、いつも通りだ。
っていうことは…
「…おはよう、村雨くん」
私のデスクと真向かいに座っている村雨くんに、いつものように声をかける。
「…おはようございます」
返ってきたのは、抑揚のない小さな返し。
始業時間前にもかかわらず、自分のPCに向かい合っている村雨くんは、分厚めのメガネをかけた前髪重ためな、もさい印象の彼だ。
歓迎会の終わり、彼を追いかけた私がみた村雨くんの面影は、目の前にいる彼には一切感じられない。
あの時の村雨くんと今の村雨くんが同一人物だなんて、私が同僚たちに言ったところで、誰も信じないだろうな…。
そして、周りの私に対する反応も、普段通りだった。
…本当に、あの時のこと、周りに話してないんだな。
『安心しろ。他言はしない』
あの日言ったこと、ちゃんと守ってくれてるんだ。
村雨くんが私のことを周りに何も言っていないことを察して、心のどこかでホッとした。
彼がどうして本当の自分を隠しているのか、理由なんてわからないけど、あの時の約束はちゃんと守ろう。
そう固く決心して、私もデスクに腰掛けて、PCを立ち上げるのだった。