戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
御曹司と擬似結婚
「な…何これ」
衝撃の見合いから、数時間後。
3ヶ月後まで結婚は待つと言ってくれた村雨くんの誠意に応え、彼の婚約者になることには了承の意を示した私。
篠塚部長の言ったとおり、見合い会場にセッティングされた料亭の料理はどれも絶品だった。
料理の味に舌鼓を打ち、食欲も満たされ、機嫌がすっかり上向きになったところで、今日はお開き…となったわけだけど。
料亭を出て、村雨くんから家まで送ると言われ、さすがにそこまでしてもらうのはと一度は難色を示した私だけど、村雨くんに婚約者なんだからと言いくるめられ、結局、一人暮らしの自宅まで送ってもらったところまでは良かったのだ。
私が玄関に入るまでは心配だと、玄関先までついてきた村雨くん。
そんな彼の心配性な一面を垣間見て、意外だなと悠長に思いながら、自宅の玄関扉を開けた瞬間、違和感を感じた。
玄関先に置いていた私の部屋用スリッパがない。
「さすが。仕事が早いな」
「え?わ、私の部屋が…ない」
そう。
ないのだ。
数時間前、家を出るまではあった、私の家具、家電、服、日用品、雑貨、その他もろもろ。
魔法をかけたかのように、私の私物全てまるまる、この場から消え去っている。
まるで、私が入居する前のような空き部屋だ。
「な、何で…?私の家具は?服は?どこ?」
「落ち着け、彩葉」
「落ち着けるわけないでしょ!家具とか服は最悪、二の次でいいけど、通帳とか印鑑とか、そのっ…貴重品もなくなってるのよ?!」
さっきまで履いていた靴を煩雑に脱ぎ、部屋の中へ駆け込む。
寝室や洗面所、キッチンも、収納棚も確認したけれど、私のものは何一つなかった。
そんな状況を前に落ち着くことなんてできるわけがない。
「と、とりあえず警察…!」
「ちょっと待て、彩葉」
「あ!」
スマホを鞄から取り出し、110を打ったところで、村雨くんにスマホを取り上げられてしまった。