戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
「な、何で村雨くんの家に私の部屋のもの持ってくのよ…」
「あ?だって、今日から彩葉、俺ん家住むし」
開いた口が塞がらないとはこういうこと。
衝撃的すぎて、気を失うことができたなら、どんなに楽か。
ちょっと待ってよ。
確かに、さっき私は村雨くんの婚約者になることは了承した。
了承したけど!
「今日から村雨くんと住むなんて…私、聞いてないっ!」
「いや、だって、言ってねーし」
しれっとした態度で返答する村雨くんに、怒り絶頂。
やっぱり無理。
こんな、…こんな自分勝手な男と、結婚できるわけない!!
「やっぱり私、婚約破棄を」
「破棄はナシ。忘れた?さっき、婚約誓約書にサインしただろ」
「〜〜〜っ」
外堀、埋められまくってる!
しかも、自分で自分を追い込むなんて、私のばか!!
数時間前、フルコースを堪能し、上機嫌になった私に、村雨くんから渡された婚約誓約書。
婚約にも署名が必要なの?と疑問を持った私に、ウチの家計は厳しくて、婚約もカタチがなければ認められないと言った村雨くんの話を信用し、素直にスラスラと自分の名前を記入した自分を、今すぐにでも殴って止めてあげたい気持ちに駆られた。
過去は戻れないけども。
「この策士野郎…」
「いいね。どんどん出してよ、素の彩葉を。助言しておくと、睨んでるつもりだろうけど、それ逆効果な。可愛すぎて押し倒したくなる」
「ちょっ…?!」
一瞬で、絡めとられ、村雨くんの腕の中に収まった私。
学習しなさいよ、自分…と、不甲斐なさが募る。
「そして、俺にとって、その”策士”ってやつ?褒め言葉だから」
「え?」
「彩葉を傍に置けるなら、俺はどんな手段でも使うってこと。それと、俺の家からまた自分のもの持ち出そうとしても無駄だから。この部屋、解約済みなもんでね」
はい?
ああ、もう無理。
何も考えられない…考えたくない。
そう思ったのと同時、私の身体は宙に浮く。
「さぁ、行こうか。俺たちの新居へ、俺の婚約者さん」
たった数時間で私の周りを駆け巡る状況の変化に対応することに疲れた私を察したのか、タイミングがいいのか、力が抜け、腑抜けになった私をお姫様抱っこした村雨くんは、私が抵抗しないことを良いことに、爽やかな王子様スマイルで、意気揚々と私の部屋を後にした。
(もう…どうにでもやってくれ。)
人生初めてのお姫様抱っこを経験した私はと言えば、もうヤケになっていたのだった。