戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
「村雨くんが、こんなにも強引な人だなんて知らなかった…」
村雨くんの家へと向かう道中、ハンドルを握る村雨くんの隣で未だ上の空な私は小さな声でぼやく。
軽い気持ちで婚約なんてするもんじゃない。
そんな世間一般の誰もが分かっている常識を、今の今まで忘れていた自分が憎らしい。
”結婚”というパワーワードに引きつけられて、婚約くらいイイかと思ってしまった。それもきっと、村雨くんのマインドコントロールにかけられていたんだろう。
だって、婚約誓約書まであの場に用意してるなんて、いくら何でも用意周到すぎる。
「恋愛に奥手な彩葉をこの手に落とすまでは、手段なんか選んでられないからな」
「わ、私は別に奥手ってわけじゃ…!」
「隠すな。恋愛に慣れてないことくらい、彩葉の反応見てればわかる」
ズバリ的を得たことを言われ、慌てて否定するも総スカン。
余裕の笑みを浮かべる村雨くんのことがどうにも気に食わない。
だって、会社で接する彼と、隣でスマートに運転している彼は、いくら何でもタイプが正反対すぎる。
会社では、私が話しかけないと何も言葉にしようとしないし、完全な陰キャラ。
でも、隣の彼はといえば、陰キャラ雰囲気ゼロ。イケメンと高身長という素材はさる事ながら、おしゃれスーツを身に纏い、マニュアル運転を卒なくこなすその姿は、世の女性が憧れる男性そのもの。
「…私のことは全てお見通しって感じね」
私の言動や行動が全て彼の意中にあると思うとつまらなく思えた。
その心を写すように言葉を発した自分の声に覇気がない。