戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
「営業の新人から、早速コクられたんだって?!」
「いや〜高嶺の花って言われてる”皆の北川さん”に交際を申し込み、独り占めしようとした勇者だって、早速ウチの課で有名人だよ!」
「あー…あのことね」
やっぱり。
学生時代も、社会人になっても盛り上がる話の類は変わらない。
他人の色事情には興味津々で、そんなネタを多く持っている人間に集りたがる。
昔の私は、そんな輪の中心にもいなければ、その周りを取り囲む側でもなかった。
数メートル先で、その輪を見つめることしかできない、その輪に入ることもできないハズレ者だった。
「これでめでたく、北川の社内でフった人数記録更新だな!」
…なにそれ。せっかく想いを伝えてくれた人の気持ちを踏みにじるようなことを、どうしてそんな風に平気な顔して言えるの?
「あはは!進藤ってば、いつの間に回数数えてたわけ?!」
心の中では同期に軽蔑しながらも、彼らの前ではウケが良いように反応し、心とは真逆の言動をする。
これだから宴会や飲み会といったガヤガヤとした場所は嫌いだ。
周りのウケを狙ったりノリに乗ったりするために、自分の思うこととは別の言動をしなきゃいけないから。
真面目さや謙虚さが取り柄だった昔の自分を前面に出したところで、大衆には全くウケないし、メリットなんてなに一つないことは学生時代に学習済み。
あんな失敗は、二度と繰り返さない。
その一心で、時には彼らの悪ノリに乗っかりながらも、内心はその場の空気に辟易していた。