戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
「おい、村雨〜!お前、こういう楽しい場でそんな仏頂面してんじゃねーぞ」
歓迎会が始まって早2時間
そろそろお開きになっても良い時間に、私が所属する人事部が集う席に戻ると、そこには私の直属の後輩である村雨くんに酔いが回った佐藤主任が絡んでいた。
「…あーあ。よりにもよって佐藤主任に絡まれちゃってるよ」
私の隣でシメのアイスを口にしながら、同僚が目の前で起こっている惨事に哀れみの目を向けていた。
「何だよ、その目は!…お前ってやつは、目は口ほど物を言うんだからな!良い大人なんだから口に出して言え!」
元々、口数が少ない村雨くんの冷たい視線に気付いた主任は、さらに激昂しキャンキャン吠えている。
こういうガヤガヤした場を嫌っている村雨くんに、無理を言って来てもらったのだから、これ以上の主任の一人劇は見ていられない。
「佐藤主任!主任が大好きなバニラアイスが溶けてますよ〜こっち戻ってきてくださいよ」
「おう、北川!やっと戻ったか!お前がいないから酒がマズくて仕方がねぇ、飲むぞ!」
いや、もう飲みませんよ
そんな心の声は奥にしまって、主任の機嫌を損ねることなく、村雨くんから引き剥がすことに成功した。
「村雨〜!主任の肩を持つわけじゃないが、もう少し社交的になってくんねぇとな」
北川、飲め飲めとうるさい主任を適当に受け流しながら、神経は村雨くんの周りに集中させる。
佐藤主任の代わりに人事部の同僚たちが、いつも仏頂面で無口で社交性の乏しい村雨くんにお説教を始めていた。
ああ…主任を引き剥がしてもダメだったか
酒の力もあってか、いつも以上に同僚たちの村雨くんへの言葉には容赦がないように感じる。