戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
全員、ここについた時にフロントに手荷物を預けたから、村雨くんは会場を出てすぐ、荷物を受け取りに行ったはずだ。
そこで足止めをくらったはずだから、急げばまだ間に合う!
エレベーターに飛び乗り、1階ボタンを猛プッシュした。
早く…早く…!
エレベーター内にある、階を告げるモニターを見上げながら焦りは増すばかり。
私もああいった飲み会は好きじゃない類の人間だけど、主任のウザ絡みを受け流したり、同期の悪ノリに乗ることはできる。
でも村雨くんは違う。
彼は周りに同調することをメリットに感じていない人間だ。
嫌がる彼を引っ張り出した挙句、同僚や上司の心ない言葉に傷ついたに違いない。
男性だからって心がタフだとは限らない。
特に、ああいった内気なタイプは打たれ弱い人が多いんだ。
私だって、昔はそうだった。今だって、カンペキ女子の仮面が剥がれて、昔の地味子だった自分が顔を出すことだってある。
チン、という軽い音と共に、目の前の扉が開く。
エレベーターを降り、フロントへまっすぐ向かうが、もうすでに彼の姿はなかった。
「あのっ、先ほどこちらで荷物を受け取りにきたメガネをかけた男性は、どちらに?!」
「えっ…その方なら、今ちょうど、あちらの扉からお外へ…」
「ありがとうございます!」
フロントに立っていたボーイさんに彼の所在を聞き、すぐに教えられた外に出る扉へ駆け寄った。