戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
「…村雨くん!」
外に出た瞬間、見慣れた後ろ姿を見つけることができた。
良かった、間に合った!
けれど、外にいるせいか、私の声は彼に届いていないようで、ズンズンと歩いて行ってしまう。
「ちょっと待ってよ!…村雨くんってば!」
「っ…え、北川さん?」
駆け足で彼に近寄り、後ろから彼を呼びかけると、村雨くんはようやく私の存在に気付いてくれた。
「はぁっはっ…村雨くん、歩くの…速いのね」
ちょっとの距離だったのに、久しぶりにヒールで全力疾走したものだから、息も耐え耐えになってしまう。
もう私も若くないんだな、と内心落ち込むものの、今は私の体力について考えている場合じゃない。
「もしかして、俺を追いかけるために抜け出してきたんですか」
「あ…うん。謝りたくて」
「謝るって…北川さんが、俺に?」
村雨くんの質問に、コクッと静かに頷いて見せた。
「なんで」
「何でって…だって、この飲み会に嫌がる君を強引に誘ったのは私だし、それなのにさっき、君が坂木くんたちに小言を言われてるところを何もフォローできなくて」
「それで申し訳なく思って、抜け出して来たと…」
「ま、まぁ…そういうこと。って、私がここに来た経緯よりも、村雨くんのこと!大丈夫?佐藤主任もそうだけど、坂木くんたちも村雨くんに向かって随分失礼なことを言ってたようだけど」
「まぁ、ああいうウザ絡みには慣れてるんで」
慣れてる、か…
私の言葉に、飄々と言葉を返した村雨くんの真意が知りたくて、ついじっと彼を見つめる。
けど、目の前の彼は表情一つ変わらず、いつもの仏頂面の村雨くんだ。
確かに、佐藤主任の前でも、坂木くんたちに囲まれても、狼狽えることなく受け答えしていた。
普段通りに…言葉数は少ないものの、必要最低限の言葉で自分の意見を言っていたのは事実だ。
「あんなの、慣れて良いものじゃないよ。…とにかく、村雨くんがさっきのこと気にしてないなら良かった。今日は、嫌な思いをさせてごめんなさい。じゃあ、私は戻るね。」
もう用は済んだと、村雨くんに背を向けて、会場に戻ろうと一歩踏み出した時だった。
「アンタの方が心配だよ、俺は」