何にもない
あの日の夜
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『っ幼なじみよ!!私を迎えに〜来たまえ〜!』
お酒に強い君が珍しく酔っ払っている。
『ねぇ〜、1人じゃ帰れない〜、だ〜か〜ら〜迎え、来て、はやく、ねぇ〜!返事は?!』
「……場所は?」
『さすが幼なじみ〜ん!』
「もぉ。」
僕は急いでスニーカーを履いて家を出る。
『おっ!来たきた〜!こっち〜!君のシンデレラはこっちだよ〜ん!』
「恥ずかしいから!静かに!」
『おんぶ!お・ん・ぶ!!』
「嫌。」
『え〜え。帰れない〜。』
「もぉ。ほら、早く。」
『ふふ〜ん。ありがとっ!』
君を背負って歩き出す。
『風が気持ちーねー!』
「そうだね。」
『重い〜??』
「うん、激重。」
『えっ、ごめん、降りる!』
「うそうそ。降りてもらう方が迷惑だから。黙って、せおわれてて。」
『口は悪いけどなんやかんや優男だな。』
「今すぐに降りる?」
『うそです。めちゃくちゃ優男です。』
「よろしい。」
『ねぇ、部屋行こ!』
「今、行ってるよ。」
『違うーーーー!』
「じゃあ、誰の部屋??」
『ん?Youの部屋。』
「僕の?」
『うん。行きたい。』
「別にいいけど。」
『よし、決まり〜!』
僕の部屋に到着。
『ただいま〜。』
「他人の家だから。」
『いいじゃん、ていうか他人とか言う仲じゃないでしょ〜!』
「そりゃそうだけど。」
水をコップに入れて渡す。
『ありがと〜。』
「どうしたの?いつも酔わないのに。」
『ん?なんかさ、友達の惚気を永遠に聞かされたらこうなってた。』
「あーあ、ひがみってやつね。」
『そうそう。こっちは心の傷も癒えてないってのにさ〜。だいぶ古傷なのにまだ癒えないってことは結構深いところまで傷ついてるってことだなぁとか思ってたら飲んじゃった!』
「そっか。」
『……ねぇ。』
「ん?」
『…私の傷、癒してくんない?』
「……嫌だ。悪酔いはダメだよ。」
『悪酔いじゃない。』
君のその真っ直ぐな瞳が僕は大好きだ。
でも君のそういうズルい所は嫌いだ。
…僕がその瞳で見つめられたら
何にも断れないことを知ってるんだもん。
さすが、幼なじみだ。
「……後悔しても知らないよ?」
『うん。』
後悔するのは自分なのに。
「僕も男だから止まんないよ?」
『ふ、そんなこと言うんだね。』
"新発見だ"って無邪気に笑う君の
唇に触れた時に僕はもう1つ発見して
欲しかったんだ。
混ぜるな危険が混ざった時
全てが壊れてしまうと知っているのに。
もう混ざった物を
2つに分けることは出来ないのに。
幼なじみという緩い関係から
何にもない何でもない
関係にこれから2人はなるんだろうな。