消えた卒業式とヒーローの叫び
第一章
◇
薄暗い部屋の中、机上の蛍光灯だけを照らし、私はパソコンと向き合っていた。
いつものように、サイトにアップロードした動画に対するコメントを読む。流れてくるものにまだ大層な誹謗中傷はなく、私は順々に目を通していた。
ただ一つのコメントに、スクロールしていた手を止める。
『危ない』
それだけのものだったが、私はなぜかその不気味とも言えるコメントに吸い寄せられた。
何が危ないのだろう。そんなことを言われるような動画を上げた覚えはないのに。
目が覚めると、私は腕を枕代わりに机に突っ伏していた。いつの間にか眠っていたようで、腕が痺れて重い。顔と触れ合っていた部分は、赤く染まっていた。
夢の中の出来事を不思議に思いつつ、私は動画サイトを開き、再びコメントを読む。だが、先ほどと同じような投稿は見られなかった。
「夢だよね……」
一体あれは何だったのだろうか。それが無性に気になりながらも、私は数日に一度投稿しているアニメーションの制作を再開させた。
もうすぐ完結する、中学生を主人公とした青春もののストーリー。
そんなアニメーションの制作を始めたのは、高校生になってからのことだった。
念願のスマートフォンを手に入れた私は、もともと絵を描くことが好きだったため、お絵描きアプリをインストールした。まだ使い慣れないシステムを理解するため、アプリについて調べていると、アニメーションを作ることができると知ったのだ。
興味本位だった。自分の絵が動いているところを見てみたい。それだけのことで、私は微妙に違うイラストを何十枚も描く趣味に走ってしまった。
一月中旬の部屋は、暖房によって空気が十分に暖められており、時折髪を撫でる感覚が眠りの世界へと私を誘う。
視界が再び上下していることに気付き、私は両手で思い切り頬を叩いた。
さらりと落ちてくる肩までの髪を耳にかけ、先日ようやく購入することができた液晶タブレットにペンを立てる。
こんなにも、のめり込むつもりは無かった。細々と自分の作り上げたものを、ほんの数人に見てもらう程度で構わなかったのにーー。
「お姉ちゃんー!」
バタバタと階段を上ってくる音が聞こえ、私は慌てて保存ボタンを押し、画面を閉じた。
ノックをすることもなく扉が開かれ、長い髪を高く結んだ子が顔をのぞかせる。
「お母さん、仕事で遅くなるらしいから、買い物行って欲しいって電話があったよー」
「わかった。ありがとう日彩」
「はーい!私も気分転換に付いて行こうかな〜」
活発で可愛らしい妹、日彩は言うなれば私と正反対だ。
悲観的かつ過去の出来事が原因で人と接することが苦手な私と、明るく前向きで誰からも好かれる日彩。
高校受験を控える彼女は、生徒会長や学級委員長を率先して引き受け、尚且つ頭も良く優しい。先生や生徒からも絶大な信頼を得ており、いつも周りに人がいた。
似ているところといえば、顔くらいだろう。
「ちょっと待ってて、準備するから」
「わかった!じゃあ私、買い物メモ取ってくるね〜!」
面白いことなど何もないのに、笑みを浮かべて去っていく残像。
冷たい冬の廊下に、花が咲いたようだった。
薄暗い部屋の中、机上の蛍光灯だけを照らし、私はパソコンと向き合っていた。
いつものように、サイトにアップロードした動画に対するコメントを読む。流れてくるものにまだ大層な誹謗中傷はなく、私は順々に目を通していた。
ただ一つのコメントに、スクロールしていた手を止める。
『危ない』
それだけのものだったが、私はなぜかその不気味とも言えるコメントに吸い寄せられた。
何が危ないのだろう。そんなことを言われるような動画を上げた覚えはないのに。
目が覚めると、私は腕を枕代わりに机に突っ伏していた。いつの間にか眠っていたようで、腕が痺れて重い。顔と触れ合っていた部分は、赤く染まっていた。
夢の中の出来事を不思議に思いつつ、私は動画サイトを開き、再びコメントを読む。だが、先ほどと同じような投稿は見られなかった。
「夢だよね……」
一体あれは何だったのだろうか。それが無性に気になりながらも、私は数日に一度投稿しているアニメーションの制作を再開させた。
もうすぐ完結する、中学生を主人公とした青春もののストーリー。
そんなアニメーションの制作を始めたのは、高校生になってからのことだった。
念願のスマートフォンを手に入れた私は、もともと絵を描くことが好きだったため、お絵描きアプリをインストールした。まだ使い慣れないシステムを理解するため、アプリについて調べていると、アニメーションを作ることができると知ったのだ。
興味本位だった。自分の絵が動いているところを見てみたい。それだけのことで、私は微妙に違うイラストを何十枚も描く趣味に走ってしまった。
一月中旬の部屋は、暖房によって空気が十分に暖められており、時折髪を撫でる感覚が眠りの世界へと私を誘う。
視界が再び上下していることに気付き、私は両手で思い切り頬を叩いた。
さらりと落ちてくる肩までの髪を耳にかけ、先日ようやく購入することができた液晶タブレットにペンを立てる。
こんなにも、のめり込むつもりは無かった。細々と自分の作り上げたものを、ほんの数人に見てもらう程度で構わなかったのにーー。
「お姉ちゃんー!」
バタバタと階段を上ってくる音が聞こえ、私は慌てて保存ボタンを押し、画面を閉じた。
ノックをすることもなく扉が開かれ、長い髪を高く結んだ子が顔をのぞかせる。
「お母さん、仕事で遅くなるらしいから、買い物行って欲しいって電話があったよー」
「わかった。ありがとう日彩」
「はーい!私も気分転換に付いて行こうかな〜」
活発で可愛らしい妹、日彩は言うなれば私と正反対だ。
悲観的かつ過去の出来事が原因で人と接することが苦手な私と、明るく前向きで誰からも好かれる日彩。
高校受験を控える彼女は、生徒会長や学級委員長を率先して引き受け、尚且つ頭も良く優しい。先生や生徒からも絶大な信頼を得ており、いつも周りに人がいた。
似ているところといえば、顔くらいだろう。
「ちょっと待ってて、準備するから」
「わかった!じゃあ私、買い物メモ取ってくるね〜!」
面白いことなど何もないのに、笑みを浮かべて去っていく残像。
冷たい冬の廊下に、花が咲いたようだった。