消えた卒業式とヒーローの叫び

 上原くんが戻ってくる頃には落ち着いているかと思いきや、その沼は思った以上に深いらしい。

 呼び出しベルと財布を片手で持ちながら上原くんが帰ってきた。この異様な空気に、訝しげな表情で全体を見るも、特に話題に触れることなく座る。

「上原ぁ、俺らの分の昼食費はー?」

 冗談らしき口調で、吉岡くんはくしゃりと笑いながら絡んでいく。上原くんは何かを察したのか、今まで見た中で一番疲れた表情を出していただろう。

「仮入部生限定だよ」

 ガンッと私の手前の机に拳が乗る。それが離れると、価値のある紙切れの遺物が三枚あった。

 私と日彩の二人分だった。

「え、でも……」

「部費からだから、気にすんな」

 そうは言いつつも、上原くんは自身の財布を鞄に直している。強制的に連れてきてしまったことに対するお詫びだろうか。いや、それでも結局来たのは私だ。

 受け取ることに戸惑っていると、大賀くんが「部費だから、ここは遠慮せず受け取っておいた方がいい」と鼻で笑いながら話す。余計に真意がわからない。

「あ、ありがとう」

 ちゃんと届いただろうか。悪いとは思いながらも、受け取るより他にない様子だった。日彩の方を見ると、何やらくすくすと笑っている。

 日彩が笑っていることはいつもの事だが、今回ばかりは何故か不愉快だった。


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