消えた卒業式とヒーローの叫び
「やめて!!」
突如、叫び声に等しい言葉が体育館に響き、歌声とピアノが止まった。私も驚いて、進もうとしていた足を止める。シンと空気が固まっていた。
「皆さんやる気はあるんですか!? 卒業式まで時間がないんですよ!? 何度言えばいいですか!? 声が小さい! 口パクの人が多すぎます。全然覚えてきてませんね。はい、やり直しー。皆が歌えるようになるまで終わりませんよー?」
最後の方は、煽るかのように五十代くらいの女性が叫んでいた。声はよく通るため、音楽の先生なのかもしれない。
いくらしっかりと歌を歌わせる為であったとしても、この言いようは完全に生徒のやる気を削いでいた。
壇上に立つ先生には聞こえない程度に、後方にいる誰かが舌打ちをする。
クスクスと笑う声も聞こえた。
「あーごめんな、タイミング悪かったなぁ」
生田先生が頭を掻きながら苦笑する。上原くんは小声で大丈夫ですと答えた。
「前田は知ってるかもしれないけど、実は私立受験の二日前なんだよ。だから歌詞を覚えてないのも仕方がないんだけどさ」
生田先生はまだ若い。生徒に対する理解力もあるため、好かれていた方だと思う。
内心、受験二日前に全体練習を強制された生徒を哀れんでいるのかもしれない。
「ほら、指揮者も何か言ってやって!」
聞いてる側の立場なのだから、同じ考え方だろうと味方のレッテルを貼られたのは、日彩だった。
「妹じゃん。大丈夫か?」
いきなり話を振られ、遠目から見てもわかるほど日彩は困惑気味だった。だが、すぐにグランドピアノの上に置かれていたマイクを手に取り、話し始める。