消えた卒業式とヒーローの叫び

 開放された生徒たちが、一斉に話し出す。出入口付近にいた私たちは、サッと壁の方へ寄った。歩いて来ることができる地元の公立高校のため、中学生もよく知っているのか、制服姿の私たちを横目で見ながら通り過ぎる。


 そんな中、日彩が壇上から下りると、複数人の生徒たちが日彩を囲んだ。

「日彩ちゃん本当に最高だよー!」

「よくぞ言ってくれた、って思った!」

「まじで日彩が先生ならいいのに!」

「前田が言ったからちゃんと声出したぜ」

「さすが元生徒会長だな!」

 男女ともに、学年全体から慕われる日彩は、照れくさそうに「ありがとう」と笑顔の花を咲かせていた。

 一輪の花の周りを舞う、数々の蝶たち。まさに青春という言葉をそのまま象ったような、青い香りがした。


 私が手にした事の無い、青い花。友達とたわいないお喋りをして、くだらないことで笑って、何かに一心不乱に取り組んで、その成功も失敗も全部を自分の経験にして、これからに活かしていく。


 そんな憧れとも言える青く儚い時間を、私は今まで手にしてこれただろうか。


「妹の人気凄いな」

 上原くんが呟く。

 その通りだった。同じ血が流れているはずなのに、私とは住む世界が違う、雲の上の存在になっていた。


「凄いね……」


 かっこよくて、優しくて、友達が多くて。

 私はそんな日彩を尊敬していた。

 でも、同じくらい日彩が羨ましかった。




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