消えた卒業式とヒーローの叫び



「俺が、永遠の絵を破った。あの松木康助(・・・・)だ」

 世界がぐらりと反転した気分だった。

 耳から入る情報が私の許容量を超え、壊れた鼓膜が全てを遮断する。

 世界から音が消え、ただ脳内で上原くんの言葉だけが幾度も反芻していた。

「松木……康助……?」

 上原くんの背後から、私の立つ場所に向けて冷たい風が吹き荒れる。

 それが走馬灯のように流れ、あの頃の彼の顔立ちが聡明に浮かんだ。

 忘れたかった。だからずっと考えないようにしていた。いつしか本当にその頃の彼の顔がぼんやりとしてきて、私の中で消化されかけていたのに。

 身長が高くなり髪も伸びて、眼鏡をかけ、声も低くなった松木と再会するだなんて、一体誰が予想できただろう。

「ずっと、謝りたかった」

 私は声を発することすらできなくなっていた。あれだけ私を虐めていた人物が、今ここにいて、何気ない会話をしながら帰路についている。

「ど……どうして……」

 振り絞って出た言葉はそれだけだった。全てが“なぜ”で埋め尽くされていた。

 どうして私を虐めたのか。それにも関わらず、どうして再会して、自分のいる部に誘ったのか。また私を虐めて楽しむつもりだろうか。それにしては、何故私に協力的に動いてくれたのだろうか。




「好きだったから。永遠のこと」



 カラスの鳴き声が、耳元で聴こえたように感じるほど大きく響いた。


 好きだったから虐めた? なにそれ、意味がわからない。

 私は今でもこんなに苦しんでいるのに。

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