消えた卒業式とヒーローの叫び
*
一度力を抜いた体は鉛のように重く、膝をがくがくと震わせていた。
毎年体育の授業である持久走でも、これだけ長時間長距離を走ったことがない。日彩に比べると少しは運動ができる方だが、それでも一般的に見ると体力は無い方である。
それがいきなり酷使されたのだ。一歩一歩がたどたどしく、肩を使っての呼吸が収まらないのも無理はない。
ずっと流れていく地を見つめていた。時折塀にぶつかりながらも、なんとか良く知る扉の前に立つ。
震える手で鞄のチャックを摘み、鍵を取り出して差し込んだ。
扉を引く力も弱く、ガチャっと小さく金属が擦れる音を立てて、中に入った。天井にある電球が、私という存在を感知して光を注いだ。
真っ黒な私が、足元に現れる。
それは、じっと私を見つめている気がした。
弱い奴だと、指を差されながら笑われている心地になり、思わずそれを靴で踏み潰して家に上がる。
「あら永遠、帰ったなら一言声くらい掛けなさいよ……って、どうしたの?」
母がエプロン姿で、心配そうな表情を向けてきた。
無理もない。無理もない。
ただ自分に言い聞かせる。全速力で天然の冷たいドライヤーに当たった酷い髪と、頬に浮かぶ枯れかけの川の跡、真っ赤になっているであろう鼻や耳、ミイラのように震えた手足と、上下に揺れる肩。
「……ううん。大丈夫だよ」
何が大丈夫なのだろう、と口に出してから考える。だがその答えは見つからない。最早その問いすらどうでも良い。
私は母から体の向きを遠ざけ、二階にある自室へ向かおうとした。
『もうすぐ死ぬ』
突然、今朝の夢の映像が頭をよぎる。
どうして今日はこんなにもついていないのだろう。朝からおかしな夢を見て、日彩の凄さを思い知らされ、記憶の奥にしまっていた人物と再開していたことがわかって。
挙句の果てに、好きだったからと。
今日一日に私が抱えられる負荷の量は裕に超え、ばらばらと腕の中からこぼれ落ちた。
やめて、これ以上私を追い詰めないでーー。