消えた卒業式とヒーローの叫び
「日彩は本当にお気楽だよね……。そんなのだから、自分の悪いところにも気付かないのよ」
何がしたいのか、自分でもよく分からなかった。日彩を傷つけたいのだろうか。酷いことを言ってしまっている自覚はある。
けれど、自分が受け止めきれなかった分の負荷を、誰かにぶつける事でしか、今の私には対処法がなかったのだ。
日彩は一瞬瞳を揺らし、口角が下がる。ああ、日彩でもそんな表情をする事があるんだと思ったが、それは一瞬のことで、すぐに彼女は手札である様々な表情を展開させた。
「うーん、確かにそれはそうだよね。前向きに捉えすぎるのも良くないけど、幸せを感じる一番の方法は、物事を前向きに捉えることだと思うよ! 私はもう少しダメなところも見直した方がいいけどね。教えてくれてありがとう!」
あはは、と軽く笑いのけてみせた彼女に、無性に腹が立った。
違う、そんなことを言って欲しいんじゃない。
ダメなところってどこだ。日彩のどこにダメなところがあるって言うんだ。日彩にダメなところがあるとするなら、私なんてダメなところしかないじゃないか。
目の前の笑顔を崩したくなった。傷つけたかった。傷ついて欲しかった。
……ううん、傷ついて、私と同じ気持ちをわかって欲しかったんだ。
「私は前向きになんて捉えられないよ。幸せにだってなれない。日彩と私は違うんだから。私は日彩みたいに明るくないし、賢くもない。フレンドリーでもないし、強くもない。なりたくってもなれない……私は一生変われないの!!」
腹の奥底から湧き出る黒い泉が、どんどんいっぱいになって、氾濫のラインを超え、洪水になる。
大きな声となって日彩を呑み込んだ。