消えた卒業式とヒーローの叫び
第四章
それからというもの、日彩は受験勉強のため部屋に籠りがちに、私は動画作成を中心とした生活を送っていたため、会話の機会がないまま二日が過ぎた。
いつもならば、喧嘩をしても次の日の朝には何事もなかったかのように話をしていたが、何せ顔を合わせる機会がなければ、仲直りも普段通りの会話もできない。そんなこんなで二日も経ってしまい、もはやどうすれば良いのかわからなくなってしまったのだ。
そして今日も朝が来る。私は部屋の前で何やら声が聞こえて目が覚めた。まだ外は薄暗く、入ってくる光は紫色で、暖房の切れた部屋は布団から少し足を出しただけで凍えてしまいそう。
「ええ、そんな状態で受験会場まで行けるの?」
母の心配そうな声がはっきりと聞こえた。
勉強のし過ぎで日彩が体調を崩してしまったのではないかと、会話に耳を澄ます。
「まあ、お腹は壊してるみたいだけど、頭は大丈夫だし問題ないよ! でも脚が一番おかしいんだよね、動かしづらくて。あと腰が痛い。座りっぱなしが良くなかったのかなぁ。まあ帰ってきたら寝て、ちょっとゆっくりするよ」
「本当に大丈夫? 怖いから、お父さんに車で送ってもらおうか」
「え、いいの? じゃあお願いしようかな」
声は徐々に遠ざかり、ただの音となる。部屋から出て階段を下りて行ったらしかった。
受験当日に不調だなんて、日彩も運が悪い。この受験が第一志望と言っていたから、今日こそ持ち前の元気で乗り越えてほしいのに。
日彩のことを哀れみながらも、私はどこか他人事のように捉えていた。
きっと日彩なら、何だかんだと言いつつ無事に終え、やり切ったと伸びをしながら嬉しそうに帰ってきて、受験から解放された喜びで録画をしていたドラマを見たり、高校入学に備えた勉強に取り掛かったりするのだろうと。
あの完璧な日彩であれば大丈夫だと、信じていた。
心配はしつつも、これまでの経験上の安心感から、私は特に起き上がって声を掛けることもなく、そのままもう一度眠りについた。