消えた卒業式とヒーローの叫び

「お願い、誰か来てぇ!」


 悲鳴にも似た声が、私の手を止めた。日彩の声だ。いつもとは少し違う危機感混じりの震え声に驚いた私は、すぐさま立ち上がり、開けっ放しの彼女の部屋へ顔を覗かせる。

「日彩? どうしたの?」

 そこには、恐怖を表す目でこちらを見つめる日彩が居た。ベッドから落ちたのか、脚は三角座りが崩れたような状態で、床に肘をつき、ガクガクと震えている。

「お、お姉ちゃん……。何故かわからないけど、た、立ち上がれなくて……。て、手足が震えて……。力が入らなくて……」

 まるで痙攣を起こしているかのような状態と、辿々しい言葉しか出ない今にも泣きそうな日彩に私も怖くなる。

 何が起こっているのかわからない。目の前に広がる状況を受け入れることができなかった。

 それでも何とかしなければという思いが勝ち、私は咄嗟に一階にいる母親に向かって叫ぶ。

「お母さん!! 日彩が! 早く来て……!」

 私は日彩の手を持ち上げ、座らせようとする。日彩は上手く四肢を動かせないのか、私にしがみつく形で、なんとか座り直すことが出来た。

「なんで……思うように動けないのぉ」

 日彩が大粒の涙ながらに訴える。私は「大丈夫、大丈夫だから……」と震える手を握ることしかできなかった。

 すると、次第に日彩の呼吸が荒くなった。「息が……」と漏らす彼女の顔色は益々悪くなる。

 泣いているからということもあるだろうが、息が上手くできないとなんて。どうしたらいいの? どうしてこんな事になったの? 

 自分の身体が急速に冷えてくる。日彩も私も、パニック状態に陥っているのが目に見えてわかった。

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