消えた卒業式とヒーローの叫び
すると、バタバタと階段を駆け上がってくる足音が近付いてきた。
「どうしたの!?」
母がエプロンで濡れた手を拭いながら私を見て、次に日彩へと視線を移す。怒っているような、驚いているような顔だったが、私は母の感情など悟る余裕すらなかった。
「力が入らないみたいなの! 手足が震えててて。あとさっきから呼吸が!」
私にできることは、日彩の代わりに症状を伝えるのみだった。母はそれを聞き、「ちょっと待ってて、救急車を呼ぶわ」と言って、元来た道を早足で戻る。
幼い頃から日彩は、大きな病気をしては入院をするということを繰り返していた。そのため、母は緊急時の対処に多少は慣れていたのかもしれない。
でも私は、自分の目の前で、死が迫るような危機を目の当たりにするのは初めてだった。
そもそも、前回の入院はもう四年以上前であり、その時もインフルエンザをこじらせたものだったため、親からも心配はいらないと言われていたのだ。
それまでは昼間学校に行っている間に病院に運ばれるか、寝てる間に母か父のどちらかが日彩に付き添って病院へ行く。
その間は祖母の家に預けられたり、入院中の日彩にお見舞いのため会いに行くほどしかなかった。私は何も知らなかったのだ。