消えた卒業式とヒーローの叫び




「永遠……前田永遠さんいますか」


 変に私の名を言い直すのは、先日の男だった。教室の後ろのドアに手をかけ、覗き込んでいる。

 クラスメイトは一度その人を見たあと、首を後ろに回し、私に視線の矢を放つ。

 私はその矢に抵抗することなく、寧ろ体中に刺した状態で、鞄を持って廊下に出た。

「永遠、部室こっちだけど」

 わざとらしく彼に背を向けたのに、いとも簡単に引き止められてしまった。名前を呼ばれてしまっては『誰に言ってるのかわからなかった』が通用しない。

 私は少し肩をすくめて、彼のいる方向につま先を向ける。

 そんな私の様子を見て、彼は歩き出した。高くも低くもない身長で、他の人より少し色素の薄い髪が揺れている。

 初めてまじまじと見た。この人があの絵を描いたのだろうか。

 その技術を自分のものにしたくて、私は一定の間隔を保ちながらついて行く。

 帰宅や部活の生徒が廊下に溢れているおかげで、誰も私が彼に付いて行ってることなど思いもよらないだろう。それほどに自然で、ある種不自然な距離感だった。


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