消えた卒業式とヒーローの叫び
第五章
白い空間が広がっていた。上も下もない、真っ白な世界。風もなく、雪景色のみの地球のようだった。
自分の服装を確認すると、寝る前に着たものと同じただのパジャマ。冬用のもこもことした素材は、肌触りが良く温かい。
ぽた、と何かが落ちたような気がして振り向くと、少女が立っていた。
身長がさほど変わらないことから、少女と言うのもどうなのかと躊躇してしまうが、私はその言葉以外に彼女を示す情報を知らない。
覆われた顔のうち、少しだけ見えた輪郭からは、白く明るい部屋に照らされた煌めく雫が滴り落ちていた。
「大切にして」
また彼女の口元が、私に向けて動く。耳の中で自分の声が再生されるような違和感に、私は吐き気を覚えた。
胃の中の混濁した感情が、食道を通して逆流してきそうになり、思わず胸元の服を握り潰すように掴み抑える。
「私が言ったこと、忘れないで」
声は止まない。まるで自分が話しているような錯覚を覚え、首を絞めたくなった。
耳をいくら押さえようと、いくら首に手を伸ばそうと、私の声は延々と繰り返し、息が苦しくなることもない。
目の前の誰かもわからない人物に洗脳されているのか、あるいは憑依されているのかもしれないという恐怖が私を襲う。
死ねない。
目覚められない。
終わらない。
「やめて!」