消えた卒業式とヒーローの叫び
私は自動ドアに吸い込まれ、息を切らしながら病室を尋ね、向かう。
病院のエレベーターに入ると、思わず備え付けの手すりに寄りかかってしまった。日彩に会うまでに息を整えなければと、誰も見ていないことをいいことに、わざと大げさに肩で呼吸する。
少しずつ落ち着いてきたところでエレベーターが開いた。病室は確か二人部屋になっていると聞いた気がする。
ちらちらと患者の名前が書かれた部屋を辿って行くと、『前田日彩』の文字が目に入り、スライド式の扉に手を掛けた。
すると、自分が力を掛けるよりも先に扉が動き、向こう側から人が出てきて思わずぶつかりそうになる。
「あ、すみませ……なんだ、永遠じゃないの」
反射でお互い一歩下がったものの、顔を上げるとそれはいつもより少し疲れた顔をした母だった。
お父さんにプレゼントしてもらったというお気に入りの長財布だけを片手に持って出ていこうとしていることから、病院内のコンビニか自販機に飲み物でも買いに行くのだろうと推測できる。
「学校終わったから……。日彩は?」
「日彩は左側のベッドよ。お母さん、ちょっと飲み物買ってくるから、その間日彩と話してあげて」
母はそのまま病室を後にした。