消えた卒業式とヒーローの叫び
「そっか。それならちょっと安心した。他には何か聞いてないの?」
「症状に個人差があるらしいんだけど、主に力が入らないくらいの筋力低下やしびれ、酷いと呼吸困難になることもあるらしいよ。あとは、ピークに達するまでは急速に悪化するんだって」
だらりと垂れた腕を見て、なるほど、とその情報に納得する。
でも、それは死ぬようなものでは無いと彼女は言った。では何故、こんなにも落ち込んでいるのだろう。
いつもの彼女であれば、「なんとかなるよ!」とでも言って、今よりもっと明るく自然に振る舞っているのではないだろうか。
それとも、単に久々の入院と受験疲れも加わって、心身が一時的に病んでいるだけなのだろうか。それに“だけ”という言葉を付けるのはあまり好ましくないと思うけれど。
「そうなんだ……。じゃあ、受験終わってからで本当に良かったね」
「うん……」
少しでも慰めようと、ポジティブに捉えたことが良くなかったのかもしれない。日彩はすっかり気力を無くしていた。
「他にも何かあるなら聞くよ。日彩、何か我慢してたり隠してるでしょ」
その時、はっとした日彩の表情と共に、ベッドが小さく揺れだした。
地震かと思い、慌てて窓から離れようとするも、私の立つ地面は至って冷静なのか体を震わす気配はない。
見間違いかと彼女を見るも、やはりそこだけは揺れていた。よく見ると、脚の覆われた布団から派生されているらしい。
日彩は自分の脚元を見つめ、今にも泣きそうな顔になっていた。
自分では抑えようもないのかもしれない。自分の体なのに自分でコントロールできない恐ろしさは、きっと経験した人にしかわからないのだろう。
痺れた脚で立ち上がった時のようにガクガクと震えるのは、ベッドに入っていても同じようだった。
ようやく揺れが収まったところで、日彩は泣き出した。普段弱さを見せない分、その姿は昨日に続いて衝撃的で、守ってあげたい気持ちを掻き立てる。
日彩は、夜中も震えでなかなか眠れなかったと言った。寝ている間ですらこのようなことが起きては、たまったものではないだろう。
私は日彩の背中をゆっくりとさすった。何と声を掛けていいかわからなかったからだ。
我ながらずるいと思う。でも下手に言葉を掛ければ、かえって日彩を傷つけ兼ねない。それだけは避けたかった。