消えた卒業式とヒーローの叫び
「あれ! 前田さんじゃないっすか!」
逆光で真っ黒な三本柱は、顔が見えなくとも誰がどれだかよくわかる。やっと顔のパーツがはっきりと見えるほど近づいてくると、両端に比べて高さが少し窪んでいる一人が、小走りに前に出てきた。
「大丈夫か? あれから何かあった?」
自主的にこの場に訪れることは、相手からすればかなり珍しいと思うに違いない。ほんの少し覗き込むような姿勢で尋ねる上原くんに、先日会った時の出来事を思い出して安心感が生まれたのか、私は素直に思いを口にすることができた。
「何かあったってほどではないけど、日彩のことで相談があって……」
すると上原くんは何かを察したようで「とりあえず中に入ろう」と促してくれた。
吉岡くんと大賀くんは省いたほうが良いかと尋ねられたが、今日の目的を果たすには必要であると判断したため、大丈夫だと断りを入れる。
上原くんは面食らったような表情をしていたが、正直短期間でここまで成長している自分に、私が一番驚いていた。
部室の鍵を開け中に入ると、黒いカーテンに覆われているせいで何も見えない。
次に大賀君が入り、手探りをすることなくパチンと扉横のスイッチを押して天井の蛍光灯が点いた。以前来た時と変わらず、質のよさそうな機材が沢山並べられている。
全員が入室したところで、上原くんが椅子を四つ引っ張り出すと、吉岡くんが一日の疲れを全身で表現するようにだらりと体を預けて座った。
それを気に留める様子もなく、上原くんは私の名を呼び、ここに座れと言葉なく椅子に手の平を向ける。
やはり男子三人と密室にいることにはまだ慣れなかったが、友達に相談するのだと心の中で繰り返し唱えることで少し落ち着いた。
「前田さん、どうかしたんすか?」
大賀くんと上原くんも席に着くと、吉岡くんが開口一番にそう言って話を持って行ってくれた。
正直、視線が集中することが辛かった。でも少しだけ、ほんの少し勇気を出して逃げないでみよう。私のためにも、日彩のためにも。
「実は……」