消えた卒業式とヒーローの叫び
たどたどしく、わかりにくくもあったと思う。考えられる原因については、誘ったことに対して彼らが罪悪感を抱くかもしれないため伏せておいたけれど、それ以外の事について、三人は長い間耳を傾け続けてくれた。
「だから、日彩を元気づけたいの。どうしたらいいか、何かいいアドバイスを貰えないか相談したくて……」
ちらりと見回すと、均等に隙間を空けて座った椅子の上で、彼らはうーんと腕を組んだり、眼鏡をいじって真剣に考えてくれる。
「永遠が何をしても、喜んではくれそうだけどな」
上原くんが独り言のように呟いた。吉岡くんと大賀くんも、それに同意を示すように頷く。
「確かに日彩なら何をしても喜んではくれるのかもしれないけど、私は喜んでほしいというより、少しでも元気になって心から笑ってほしいの」
私の素直な思いだった。そう話すと、また重苦しい空気が広がり、皆それぞれ視線を散らす。
自分でもかなり厄介な頼みごとをしていると思う。上原くんの意見に反論してしまった形に対し罪悪感を持ちながらも、これでいいのだと自分に言い聞かせる。
ここで素直に自分の思いを口にできなければ、何も変われないし、日彩のためにもならない。心の中で上原くんに謝りつつ、私は黙って考え込む三人の表情を見つめた。
すると、如何にも名案が浮かんだというような表情で、吉岡くんが「あ!」と声を上げた。
「卒業式を挙げたらどうっすか! 日彩ちゃんが一番求めているのは卒業式なんすよね?」
あぁなるほど、と一瞬納得しかけたが、間髪入れずに横から微笑混じりのため息が聞こえてきた。
「吉岡、話聞いてた? その卒業式ができないんだよ。仮にやるとして、どうやって病人を連れていくんだ。普通に考えて厳しいだろ」
大賀くんが諭すように淡々と述べる。
でも、両者共に尤もだ。日彩が一番悲しんでいる原因は恐らく卒業式。
それをすることが彼女にとって最も喜んでもらえることだが、入院する必要のある人をどうして連れ出せようか。
それに、彼女は式自体をしたいわけじゃない。大切な友達と、三年間過ごした大事な場所で、最後の思い出を作りたいのだろう。
だから、式当日に私たちだけで祝われても、逆に辛くなってしまうかもしれない。もし実行したとしても、日彩は嬉しそうな表情を作りはするだろうけれど。
「そうだけどさ、後日仲の良い友達だけ集まってもらうだとか、もしくは他に何か案を探してでも、卒業式らしきことをしてあげたいじゃん! 日彩ちゃんが一番望んでいることをしたいし、何よりその方が日彩ちゃんも元気になれると思うんだよ。絶対何かいい方法があるって!」
いつもに増して、吉岡くんが熱く語る。それを見た大賀くんは、反論することもなく、足元に視線を落として再び押し黙った。
私も同じように手元に視線を落とす。何だか現実味を帯びてきた気がして、背中がずんと重くなった。
吉岡くんの言う通り、日彩が元気になるためにも卒業式を挙げてあげたい。
でも、そんなことどうしたらできるのだろう。何かいい案なんて、浮かぶのだろうか。そもそも私には、例え規模が小さなものでも挙行できる自信がない。
やはり、ただ私が日彩に簡単なプレゼントでもする方が、一時的にでも喜んでくれて、かつ現実的なのだろうかと諦めそうになった。