消えた卒業式とヒーローの叫び
「できるかもしれない」
しんとした中で発せられた言葉に反応するように、私たちは顔を上げる。一筋の光を見出したかのようなその回答をしたのは、向かいに座る上原くんだった。
「でも、できないかもしれない」
一瞬で打ち砕かれた希望に、思わず大賀くんが「どっちだよ」と笑う。それでも上原くんは真剣な眼差しで、組んでいた腕を降ろし、私と目を合わせた。
「何をするにしても、できるかできないか今はわからない。方法によってはできないこともできるようになるかもしれない。できるかできないか、それは一旦置いといて、永遠がしたいかどうかを大切にすればいいんじゃないか?」
胸の奥の何かが、その言葉に引き寄せられた気がした。上靴が床に擦れながら、椅子の下に隠れる。無意識に膝の上のスカートを握りしめていた。
「最初から無理だと思って行動しなければ、可能性はゼロだ。でも無理かもしれないと思っても、挑戦すれば可能性はゼロじゃなくなる。諦めなければ、一パーセントの可能性が味方になってくれる。大事なのは、永遠がやりたいか、やりたくないかだ」
眼鏡のレンズを挟んで見つめるその瞳は真っ直ぐで、言葉の一つ一つに彼の思いが込められているとわかる。
私がやりたいか、やりたくないか。私は日彩に何をしたいと思った? 日彩のために、私に何ができるかでなく、私がしたいこと。
「卒業式、してあげたい。……ううん、したい」
夜明け前の真っ暗な森の中で、朝日とともに霧が晴れていくような心地だった。そうだ、最初からできることを探すより、自分の思いや、何を目的としているのかが一番大事なんだ。
吉岡くんが立ち上がり、「上原いいこと言った!」と拍手をする。少し恥ずかしかったのか、「やめろ」とじゃれ合う二人が、何だか微笑ましかった。
「前田さんがそう言うのなら反対はしないけど、でもどうやって?」
冷静に物事を考える大賀くんが、現実に引き戻す。でも、一つ前に進んだ。
「まずは理想と目的を整理して考えよう」
上原くんが、隅に置かれていた一つの机を引っ張り出し、円となった四人の真ん中に向けて滑らせる。
その上に鞄から取り出した一枚のルーズリーフと筆箱を置き、右手でカチカチと二回シャーペンの頭を親指の腹で叩いた。