暁の夕暮れ ~春の章~
「いや、心臓に悪いのなんの…」
……小さい頃にも、あった気がする。
そこまで考えて、俺はハッとして頭を振る。
「駄目だ、あの人のことを思い出したら…みんなに、迷惑が…」
そこで、口をつぐむ。
「着いたら、起こしてあげるからね…」
俺は、小さく呟く。
「…おやすみ、俺だけの…眠り姫」
そう言って、少し肩を揺らした。
* * *
「……んん……っ!」
あれ、俺…寝てた?
「うわぁ、やっちゃった…こりゃ大変だ…」
相変わらず、ことねは寝ている。
「あー、寝過ごすなんてあり得ないっての…」
そう呟きつつ、スマホを取り出す。
終電のチェックをするためだ。
「……あっ、まだある。よかった…」
ほっ、と安堵の息をつく。
「次の駅で降りるしかないか…ことねっ、起きて!」
そう呼びかけるも、起きてくれない。
「あぁ、こりゃ駄目だな、どうしよう…」
その後、くすぐったり、耳元で名前を呼んだり、揺すったり。
でも一向に、起きる気配無し。
「あぁ、うーん…はぁ、どうしよう…」