暁の夕暮れ ~春の章~

「いや、心臓に悪いのなんの…」

 ……小さい頃にも、あった気がする。

 そこまで考えて、俺はハッとして頭を振る。

「駄目だ、あの人のことを思い出したら…みんなに、迷惑が…」

 そこで、口をつぐむ。

「着いたら、起こしてあげるからね…」

 俺は、小さく呟く。

「…おやすみ、俺だけの…眠り姫」

 そう言って、少し肩を揺らした。



       * * *



「……んん……っ!」

 あれ、俺…寝てた?

「うわぁ、やっちゃった…こりゃ大変だ…」

 相変わらず、ことねは寝ている。

「あー、寝過ごすなんてあり得ないっての…」

 そう呟きつつ、スマホを取り出す。

 終電のチェックをするためだ。

「……あっ、まだある。よかった…」

 ほっ、と安堵の息をつく。

「次の駅で降りるしかないか…ことねっ、起きて!」

 そう呼びかけるも、起きてくれない。

「あぁ、こりゃ駄目だな、どうしよう…」

 その後、くすぐったり、耳元で名前を呼んだり、揺すったり。

 でも一向に、起きる気配無し。

「あぁ、うーん…はぁ、どうしよう…」
< 10 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop