暁の夕暮れ ~春の章~
「あの、さっき何したんですか?」
「さっき、って?」
「私を起こした時です」
「…うっ」
……あれ、なんか動揺してる。
「どういうことをしたんですか?」
「……ね、眠り姫みたいに」
「………眠り姫?」
菜央さんは頷く。
「…き、キスで起こした……」
「へぇ、キス…。……キス?!」
私は叫んでしまって、後から気づいて口を押さえた。
「ど、どうしてそんなことを……!」
「だって、かわいいんだもん」
菜央さんはムスッとして言う。
「俺のものに、したくなった」
「……え」
「俺、君が好きだ」
「…好き、ですか」
冗談、かな。
「うん、…これも、本気」
菜央さんの気持ち、すごく嬉しい。
でも、私はまだ…自分の気持ちに気づけていない。
「……返事は、いつになっても…いいです、か?」
菜央さんは少し目を見張ると、微笑んだ。
「もちろん。いつまでも待つよ」
「……はい」
「そう言ったってことは、考えてくれるってことだよね?」
「まぁ、はい」
「まだフラれてはいない訳だ」
……ええ、フってはいませんが。
「そこに賭けても…いいよね?」
「……勝手にどうぞ」
軽く呆れながら、私はそう返した。