暁の夕暮れ ~夏の章~
水族館で
【秀也side】
「わ…すっごい大きい水槽…!」
「あー…イワシの大群、ってヤツかぁ」
照明に照らされて、イワシの体が銀色に輝いている。
俺はことねの隣に並んで、その姿を見上げた。
「…こんなにたくさんいて、バラバラにならないなんて…すごいです」
「やっぱり、間隔とかも考えてるのかな」
「ふふっ、だとしたら…ますます、すごいですね」
そう言って微笑むことね。
「ずっと、眺めてられるな」
俺が呟くと、「そうですね…」と返事が聞こえた。
「惜しいけど、次行こうか」
「次は…サメのトンネル?」
「げっ」
「ん、どしたの?」
ことねがあからさまに動揺したのを見て、涼がそう聞く。
「え…あ、いえ」
「…そう?」
「じゃ、行くぞー」
俺たちはトンネルの中に進んでいく。
「うわ、すご…ちょっと怖いかも」
「人が多いな。はぐれねぇよう気をつけ…ん?ことね…?」
辺りを見回し、ことねの姿が無いことに気がつく。
一瞬、それらしき人を見かけたが、その背中もすぐに人混みに紛れて消えてしまう。
「……ことね…っ?」
「俺、ちょっと引き返すわ」
「ちょ、秀也っ!」
俺は言い残すと、踵を返した。