異世界で女嫌いの王太子に溺愛されてます。
「終わった……」

なんとか片付いたのは、23時前。今なら急がなくても終電に間に合いそうだ。
データの提出は、婦長に言われて鍵のかけられるところになっている。だからもう、さすがに大丈夫だろう。

片付けを済ませて病院を後にする頃には、心も体ももうくたくたになっていた。


「ふう……」

終電に乗って座席に座ると、思わず息を吐いた。
疲れたなあ……
なんかもう、全部が嫌だ。あんな職場、もう辞めたい。
仁とのことも、はっきりさせたい。
理香にだって、ひとこと言いたい。
一人心の中で愚痴っているうちに、睡魔に襲われてきた。ここで寝てしまったらやばい。わかってはいるんだけど……





「悠里ちゃん、悠里ちゃん」

「うん?」

「悠里ちゃん、久しぶり」

「誰?」

目の前に現れたのは、薄茶色の犬だった。

「……こむぎ?」

「そうだよ」

犬なのに、嬉しそうに微笑んでいるように見える。

「僕のこと、覚えてる?」

「もちろん」

忘れるわけがない。こむぎは私の大切な家族だったから。



< 16 / 247 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop