だれよりも近くて遠い君へ
「顔が真っ赤だったので、埃のアレルギーかなって思って…」

お母さんが喘息だったから、埃はほんとに怖いの。
目の前で、真っ赤な顔で呼吸が苦しそうになって、こっちを見ている目は役に立てないことを物語っていてつらかったんだ。

一生懸命、掃除はしてたんだけどな。
結局助けられなかった。

あー、なんかフラフラするかも。
呼吸って、こんなに重いものだったっけ。

「あっ、あの、期待してもいいってことですか」

グイっと彼は私の腕を掴んで、壁側にジリジリと押していく。
風で埃が宙を舞う。

「えっとー、どういうことでしょうか、?」

舞った埃が下から上がってくる。

掴まれた腕がだんだん温度を失っていく。
離して欲しいと叫んでいる。
やめて、これ以上近寄らないで。

呼吸が重い。
頭がフラフラする。
肺が狂ったように暴れだす。
途端に私はうずくまる。
埃はさらに入ってくる。

お母さんが倒れた時、私はなにも出来なかった。
肺炎になる前に、お父さんと言い合いをしていた。

「離婚したい、春とは暮らせない」

はっきり言ったお父さんに、悲しそうなお母さんが、急に脳裏に蘇る。
精神的に参っていたお母さん、私が原因だったんだもんね。
本当にごめんなさい。

ごめん
ごめんなさい
許して
お願いだから

助けて

お父さんは、私の方を見てすぐに目を逸らした。
まるでなにもなかったみたいに。

私はここにいるのに
なんで、なんで、なんで、

「はぁ、はぁ、はぁ…」

ヒューヒューと、喉が音を、立てる。
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