愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「俺はもうおまえの兄じゃない。夫だ」

瞬時に私は全身が心臓状態になった。どくんどくんじゃ生易しい。どごどごどごという地鳴りみたいな心音が怒涛の勢いで鳴り響いている。

夫。佑は私の……夫。
こんな佑、見たことない。
どうしよう、このままだとキスしてしまう。
どうしよう、どうしよう!

次の瞬間、勢いよく佑が身体を起こした。
数瞬の無表情と無言。私は息をするのも忘れて佑を見つめた。
それから、佑はにこっと微笑んだ。

「驚いた?」

どうやら冗談だったらしい。正確にいえば冗談ではないんだけれど、少なくとも私をからかっていたのは間違いなさそうだ。

「も、も~!!驚いたに決まってるでしょ~!!」

私は照れ隠しに怒鳴った。たぶん真っ赤な顔のまま。

「さっきのお風呂事件よりびっくりした!」
「今日は俺、前科二犯だったな」
「そうだよ!反省して!」

怒鳴りつつ、まだ心臓がどくどくと拍動している。身体中が強い鼓動で苦しいくらい。

「悪かったって。俺、風呂に入ってくるな」

佑は明るく笑ってソファを立った。その背を見送りながら、私はうつむきふーと長く息をついた。

佑……さっきの、本気だった?
冗談で覆いきれない何かを感じる。
それって……。

その日はそれ以上詮索できずに、終わってしまった。
私たちはただの家族に戻り、お互いに適正な距離で眠りについたのだった。
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