愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
23時過ぎ、ようやく玄関の鍵が開いた。俺は反射的に立ち上がった。

「咲花!」

呼びながら出迎えに行こうとしたら、早くもリビングのドアが開いた。帰ってきた咲花はきょとんと俺を見ている。

「佑、どうしたの?」

俺の態度を不思議そうに眺めて言うのだ。

「すごく険しい顔してるよ」
「……遅くなるって、……連絡がつかなかったから心配した」

女々しくはないだろうかと考えながら言った言葉は言い訳みたいだ。咲花がああとスマホを取り出す。

「ごめんなさい。充電が切れちゃって。実は母方のおばあちゃんが入院したって連絡があって、慌てて病院に行ってきたの。大宮なんだけど」

咲花はコートを脱ぎ、スマホをコンセントタップで充電し始める。なんでもないことのようにケロッとしている。

「圧迫骨折みたいなのよね。精密検査はするけれど、内蔵の病気とかじゃなさそう。高齢だから、ちょっと心配で」
「咲花」

俺の呼ぶ声に咲花が振り返りにっこり微笑む。愛らしい笑顔に、この数時間の不安な気持ちがぶわっと湧き上がってきた。

「なに?」

小首をかしげ問い返す咲花を、勢いよく抱き締めた。
咲花が驚いて息を詰めるのが感触でわかる。
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