愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「触りたいと思うのはいけないことか?」
「佑……」

咲花の言葉を聞きたい。決定的な告白がほしい。
いや、ここで咲花にきっかけをゆだねるのはやめよう。
俺は俺の意志で咲花に気持ちを伝えるべきだ。
咲花は潤んだ瞳で俺を見据えている。寄せられた眉も、きゅっと閉じられた唇も愛おしい。

「俺は、咲花のことが……」

そのとき、咲花の充電に繋がれたスマホがぶるぶると振動を始めた。着信のようだ。

「なんだろ、こんな時間に」

タイミングが悪かった。仕方なく俺は咲花を解放して、言った。

「おばあさんのことかもしれないし、出た方がいい」

咲花はまだ赤い顔のまま頷き、電話に出る。

「え……」

咲花が硬い声を漏らす。何かあったのだろうか。咲花はしばらく、電話の向こうからの声に耳を傾けていた。表情は凍り、唇は薄く開いたまま動かない。

「咲花?」

通話を終えた咲花の顔を覗き込むと愕然とした表情で彼女は言った。

「父から……。今すぐ実家に戻ってこいって。……佑との結婚は白紙に戻すって」

俺は言葉を失った。
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