愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました



いったい何が起こったのだろう。夜のうちに父に電話をかけたが繋がらない。
状況がわからないまま、急転直下の命を飲み込むわけにはいかなかった。

翌朝、咲花は実家に立ち寄ってくると言い、出勤していった。
俺もまた、朝一番に社長室を訪れ、父を捕まえた。
どういうことだ。結納まで交わしておいて、結婚を白紙にするなんて。
これから視察とビジネスランチのある父は、面倒くさそうに俺に相対する。

「公平のところに回していた仕事を他所に頼んだんだよ。そうしたら、不貞腐れやがって、まったくあいつは」
「官公庁案件、レセプション会場建設の件ですか?公平おじさんのところで概ね合意していたじゃないですか」

陸斗建設が抱える大きな仕事だ。発注元は外務省。俺も把握はしているが、父としては俺に代替わりする前、最後の大きな仕事と肝煎りで進めている。

「今回は国営事業だから、大盤振る舞いできないんだよ。安く仕事ができるところに回して何が悪い。足りない分を賄うのはうちなんだぞ」

一族主義のくせに、こうした金に汚いところが父にはある。自分は一銭の損もできないと、咲花の父を切り捨てたのだ。

「公平おじさんの会社、億単位の損失が出ますよ」
「立ちいかなくなったら、陸斗の傘下企業じゃなく、完全子会社になればいいと言った。どうせ、おまえとは親戚だし子ども同士が夫婦になるんだからな、と。俺は救済措置まで用意して提案している」

横柄に言って、父は首を振った。
< 117 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop