愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました

「公平のやつ、頭に血がのぼって、咲花ちゃんとの結婚をなかったことにすると言いだしてな。あれは言いだすと聞かないから、おまえも婚約破棄に同意しなさい」
「……は？……何を言っているんですか？」

さすがに怒りがふつふつと湧いてきた。

「代わりの嫁は早急に探してやるから、おまえが心配する必要はない。ひとまず、今日にでも実家に戻れ」

実父に対して殴りたいほどの感情を覚えたのは初めてだった。俺は拳を握りしめ、堪えるためにぎりと奥歯を噛みしめた。それから吐き出すように言う。

「咲花と俺をなんだと思っているんですか。傑も美里もそうだ。俺たち子どもは、あなたたちの自由にしていいものじゃない。将来を、人生を、勝手に決めないでください！」
「青臭いことを言うな。組織を守っていくためには、取捨選択の判断を的確にスピーディーにこなす必要がある。咲花ちゃんはおまえにはもう不要だ」
「不要？よくそんなことが言えますね。俺には咲花が必要です」

父はふうとため息をついた。あきれたような表情で俺を見る。

「おまえは傑と違ってもう少し賢いと思っていたんだがな」

父の秘書がドアの向こうで声をかける。
今行く、と父は俺を室内に置き去りにして出て行った。

俺は握りしめた拳をほどくことができず、一点を見つめていた。