愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
その日、咲花の帰宅は遅かった。
日付が変わる少し前にようやく帰宅した咲花は随分疲れて見えた。

「遅くなってごめんね。お夕飯は?」
「済ませたから平気だ。それより」

咲花は弱々しく笑った。

「全然ダメ。別れろの一点張り。部屋に閉じこめられそうになって慌てて逃げてきたの」

閉じこめる……咲花の父親ならやりかねない。

「事情は聞いたけれど、竜造おじさまはなんと言ってるの?うちの父に対してじゃなくて、その……私たちの結婚について」

一瞬なんと言ったものか悩んだ。
しかし、ここでごまかしても仕方ない。俺はすでに覚悟を決めている。

「別れろ、と。俺には別に花嫁を探すから実家に戻れと言われた」

咲花が瞳を揺らした後、ぎゅっと唇を噛みしめた。

「そっか……。そんな気はしてた。私たちの結婚はいわゆる政略結婚なんだよね。親同士の約束だから、それがなくなったら終わりになっても不思議じゃない」
「咲花はそれでいいのか?」

俺は強い口調で尋ねる。

「親に言われたら関係解消でいいのか?俺は……」

ぐっと拳を握り、俺は咲花を見据えた。

「俺は嫌だ。咲花と別れるのは」

咲花が俺を見つめ返す。驚いたような、切ないような目は、潤んでいる。

「佑……」
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