愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
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その日から、俺と咲花は忙しく動き出すこととなった。
まず、結婚式場をキャンセルし、決定していた招待客すべてにその旨の詫び状を郵送した。
社内で会う人間には口頭で事情説明もした。とはいえ、詳細は話さず『家の事情で現時点は中止』という言い回しをした。咲花も同じように説明した。
俺は父親とはなるべく会わずに過ごした。俺も父親も、それぞれに仕事を抱え忙しい。互いの仕事内容は把握しているし、すでに俺が社長代行をしている案件も多い。社長決裁の半分くらいは俺のところに回ってきているのが現状だ。
俺が急に陸斗を辞めることも、表立って親父と反目し合うことも、会社的にはマイナスになる。そこでありとあらゆることを、水面下で動くことにした。
うちの両親は、結婚式のキャンセルを咲花との関係が壊れたからだと考えていた。美里の時と違い、すでに会場を押さえ、招待状を連名で送っているため、花嫁の首を挿げ替えるわけにはいかない。仕切り直しだからだと思っただろう。
実家に帰ってこないことは訝しんだだろうが、咲花がいなくなったマンションでひとり暮らしをしていると解釈していたかもしれない。
大きな案件が迫っていることもあり、父は俺に新たな花嫁候補を勧めてくることもなく、俺の結婚は対外的にも身内にも保留の状態でとどまっていた。
俺と咲花は、結婚式関連のキャンセルを終えると、早急にふたりで引越しの準備を進めた。
咲花の両親は連日彼女に電話して、早く帰ってこいと言っているようだった。
このマンションは知られているし、どちらの実家からも遠くないので、いつ押しかけられても不思議じゃない。合鍵も渡しているし、いつやってきて、咲花の荷物を勝手に引き上げていくとも限らない。