愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「一度住所は実家に戻すわ」

両親を油断させるためではなく、家族であれば住民票を取り寄せられるため、引っ越しても居場所がわかってしまう。引っ越すのは俺だけということにし、咲花がそこに転がり込む格好で同棲してしまえば、咲花の両親は彼女の行方を追えなくなる。

入籍してしまった方が早いとも薦めた。しかし、咲花は言う。

「理解してもらえなくても、きちんと説明してからにしたい。佑のご両親にも、うちの親たちにも」

そういうことなら、仕方がない。
咲花の気持ちの面での納得はとても大事なこと。それでいいと俺も応じた。

準備を始めて一週間半で、俺と咲花は23区外の街にマンションを借りた。
住んでいた街よりだいぶ静かな地域で、通勤には時間がかかるようになってしまったが、俺も咲花も嬉しかった。
多少なりともラグジュアリーでセキュリティがしっかりした高層マンションに住んでいた俺たちが選んだのは、どこにもありそうなファミリー型の賃貸マンション。あたりに高い建物もない落ち着いた地域なので、このマンションも三階建てのこじんまりしたものだ。築年数も経っているので、あきらかに前の住まいよりはグレードダウンした雰囲気だ。
しかし、もとより咲花は質実剛健タイプ。住みやすい街と住居に満足そうだった。
< 124 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop